Grading Space
Grading Space(LMT)について
WonderLookProはリニアの色空間であるACESとして色を管理している、という説明をしました。
しかしながら、色調整を行ったり、LUTを適用したりするためには、リニアでない色空間に変換する必要があります。この空間のことをGrading Space (LMT適用空間)と呼んでいます。
LMT: Look Modification Transforms
本来は、ユーザーの方が意識せずにすむことが望ましい項目です。ですが、いくつかの技術上の制約のために利用者の方に多少意識していただかなければなりません。
色調整を行うためには、計算式上、入力色空間の0と1の定義を決めなければなりません。どんなに広い色空間を対象にしていても、色調整の対象となる最小値と最大値を決めなければなりません。リニアACESの場合、そのまま使用するとすると、0が暗黒、1.0が100% Whiteとなり、それ以上の明るさに対して適用することができなくなります。LOGカメラは最低でも400%、ダイナミックレンジの広いカメラだと3000%の明るさが入力信号として入ってきます。ACES値に直すと30.0です。0~1.0しか扱えないような色調整では使い物になりません。では、どうするか、というと、色調整に適した色空間に変換してから色調整を行い、色調整後にACESに戻す、という処理を行います。この色空間のことをGrading Spaceと呼んでいます。
色調整を行う手順をダイアグラムで示すと下記のようになります。
色調整(Color Correction)は、Grading Spaceの定義に依存していることがわかります。色調整前後のGrading Spaceへの変換を含めたものをLMT(Look Modification Transform)と呼び、このLMTであればデバイスに依存せず、汎用的に利用可能な変換となっているわけです。したがって、WonderLookProでは、色調整情報はGrading Spaceの種類とともに管理され、どのようなワークフローでも適用できるような設計としています。
Grading Spaceとは具体的にはどのような色空間なのでしょうか。
実はACES委員会でも、種々の議論・意見があり、このGrading Spaceを使えば問題は全く発生しない、という決定打が見つかっていません。残念ながらどのGrading Spaceもメリット・デメリットを持っているのが現状です。WonderLookProでは、利用者が迷わないように、デフォルトで適切なGrading Spaceが選択されるように設計されています。ですが、ワークフローによっては特定のGrading Spaceを使用する必要がある場合があるので、マニュアルで選択可能な手段を提供しています。
下記にWonderLookProで対応しているGrading Spaceを示します。最大ACES値、最小ACES値が、それぞれのGrading Spaceがカバーできる明るさの範囲を示しています。特に、最低ACES値、負のACESをカバーしているかどうか、が重要です。
Grading Space |
最低ACES値 |
最大ACES値 |
Gamut |
特徴 |
ACESproxy |
0.001185 |
222.861 |
ACES AP1 |
10bit, 12bit, 16bit の整数でACESを表現することを目的に策定された。 カーブはpureLOGであり、素直なオフセット調整が可能。 最低ACES値が0でなく0.001185であるため、黒が浮いてしまう大きなデメリットがあり、現在は推奨されていない。 |
HSLA |
-0.100 |
222.875 |
ACES AP1 |
負のACES値は-0.1までカバー。シャドーが浮きにくく、シャドークリップによるアーチファクトも出にくい。色空間も圧縮しているため、バンディングが出にくい。 シャドー付近はpureLOGからのずれが大きく、オフセット調整で直感的な動きからはずれる。 |
ACEScc |
0.001185 |
222.861 |
ACES AP1 |
ACESproxyの浮動小数点表現。 |
ACEScct |
-0.0069 |
222.861 |
ACES AP1 |
シャドー付近のLOGのカーブを改良し、-0.0069まで利用可能とした。 現時点では最もバランスが良いGradingSpace。ただし、色空間変換では、負の領域が不足して、破たんを起こす場合もある。 |
SLOG3 |
-0.01402 |
38.42 |
SGAMUT3 |
SONYカメラに搭載されているカメラLOG。フィルムに近いグレーディング特性を持つが、ハイライトのダイナミックレンジがやや狭いことが欠点。 |
LogC |
-0.01729 |
55.08 |
ARRI Wide Gamut |
ARRIのカメラに搭載されている、負の値から最大値までカバー領域の広いカメラLOG。 |
VLog |
-0.02232 |
46.08 |
V-Gamut |
Panasonicのカメラに搭載されているカメラLOG。カメラLOGの中で、最も負の領域が広く、ハイライトも十分な領域を持つ。 |
カメラLOGのレンダリングではACEScct、色空間変換ではHSLAを推奨しています。