みなさん、こんにちは。内田です。
このページではLOG映像を活用した映像製作について、今後、数回にわたりLOG映像について解説をしたいと思います。
- そもそもLOG映像って一体どういうものなのだろう?
- LOG映像で映像製作を行いたいが、何をどうすれば良いのだろう?
- LOG映像を活用して映像制作をしているけれど、今一つ効率やクオリティが上がらない・・・
といったお悩みや疑問をお持ちの方々にお答えしていければと思っています。
- 第一回 各種カメラの階調特性のグラフを見てみよう
- 第二回 そもそもLOGって何?
- 第三回 LOG映像は何故眠い? その1 シーン・リファード画像?アウトプット・リファード画像?
- 第四回 LOG映像は何故眠い? その2 何らかの変換=レンダリング
- 第五回 LOG映像は何故眠い? その3 S-Log2/S-Log3を徹底解剖
- 第六回 IDTとは? 主なカメラのダイナミックレンジを大公開!
※講座の内容は変更になる可能性があります。
みなさんこんにちは、内田です。
前回まで「LOG映像は何故眠い?」ということについて「アウトプット・リファード」「シーン・リファード」
「レンダリング」「ACES規格」という言葉を紹介しながら解説してきました。
今回は本件のまとめとして、SONYの独自規格であるS-Log2/S-Log3を例にとって解説を試みたいと思います。
上の二つの画像はどちらもF55で収録したシーン・リファード画像です。
それぞれS-Log2とS-Log3で収録したものですが、皆さんはどのような違いを感じられたでしょうか?
「S-Log3の画像の方が明るくて眠い。」など様々な感想があると思います。
では、それぞれの階調特性のグラフは実際どのようになっているのでしょうか?
上のグラフはF55の階調特性をそれぞれS-Log2とS-Log3で実測したグラフです。
いつもと同じ様に、縦軸が10bitのコードバリュー(以下CVと略します)、
横軸が露光量(対数スケール)で表されています。
ではさっそく、F55の階調特性グラフについて解説をはじめましょう!
暗黒下でのCVはS-Log2で90、S-Log3で95となっています。
値が0でなくオフセットが足された値になっていることに注目しましょう。
オフセットを持たせていることによりクリップされずに画像情報として記録することが可能となっています。
クリップされないことにより、デジタルノイズ(アーチファクト)を最小限に押さえ込むことが可能となります。
シャドー領域については、S- Log3はS-Log2よりも暗い領域(左側)からカーブが立ち上がり、値の大きなCV値と
なっていることがわかります。実際に画像を見てみるとS-Log2よりもS-Log3のほうがシャドー領域がより明るい
グラデーションとなっているのがわかりますでしょうか?
これは、S-Log3では、シャドーの画素値に十分なビット分解能を与え、ビットアサインによるノイズ増大を
押さえる方向となっていることを意味します。S-Log3の方がシャドー領域のノイズに強いといえそうです。
映像としてはS -Log3の方が明るく眠いという方向性となります。
方向としてはS-Log3の方がビット分解能を犠牲にしており、滑らかなグラデーションの再現には不利といえます。
逆にいえばS-Log2の方が中間調についてはグラデーションが滑らかであるといえます。
ハイライトの領域はどうでしょうか?
ハイライトに関しては、Log2Yの6.0付近(パーセント表示で1226%)で
飽和していることがわかります。6.0より明るい被写体は
記録できません。
この飽和点はS-Log2でもS-Log3でも変わりません。
同一のカメラで計測したということは、同じセンサーを使用した
結果なので当然と言えば当然です。
グラフでは、F55をS-Log2モードとS-Log3モードで計測した実測値とそれぞれの理論値を示しています。
ハイライト以外は極めて精度良く、実測値が定義式から
導かれる理論値と一致していることがわかります。
私どもの経験でも、カメラ個体間のバラつきもほとんどなく、
メーカーが公表しているLOGカーブはそのまま信頼して
使用しても差し支えない、と判断しています。
S-Log2の理論値と比べてより明るい領域まで記録可能なことがわかります。理論値だけを取り出してみてみると
S-Log2はほとんど余裕がありませんがS-Log3の方は、あと2Step程度ダイナミックレンジが広がっても
記録可能なことがわかります。
言い換えると「S-Log3はS-Log2よりも広いダイナミックレンジを記録可能なLOGフォーマットである」と言えます。
F55に限っていうと、S-Log2で収録しても、S-Log3で収録しても同じセンサーを使用しているため、
記録されている映像の情報量としては違いがありません。
ここまでの分析を表にまとめると下記のようになります。
S-Log3は中間調のグラデーションをやや犠牲にして、シャドーのSN比やハイライト側のダイナミックレンジを
大きく広げた定義となっていることがわかります。逆にS-Log2は中間調のグラデーションに有利であるといえます。
様々なバリエーションが生まれます。これがメーカーごとに異なるLOGカーブが存在している大きな理由です。
どちらを選んでもワークフローはほとんど変わりません。今回解説をしてきた階調特性から判断してシャドーノイズ、
中間調のグラデーションのどちらを重視するかで決めると良いでしょう。
しかし、LOG映像に対して直接グレーディング(色調整)を行って仕上げていく場合には、S-Log2とS-Log3どちらを
選択するかということは、最終映像に対して大きな影響を与えるので、LOGカーブ以外にも様々な要素を考慮して
入念な予備テストを行って選択すべきと思われます。この様々な要素については、また後日詳しくお話ししたいと
思います。
内田氏プロフィール
自称、映像システム設計のお困りお助け士。コンシューマーフォトからスタートし、Cineonが発表される前、1995年頃から
LOG映像を使ったシステム設計に携わる。現在は、手間隙かけずにカメラの性能を引き出した絵作りができるような
ソリューションの実現に心血を注いでいる。